ランニングインタビューとは何か──走りながら話すと、なぜ本音が出るのか
( 最終更新日:2026年6月11日)
本記事の要点
Q. ランニングインタビューとは何ですか?走りながら話すと本音が出るのはなぜですか?
結論:取材者と取材対象者が並走しながら話すインタビュー手法です。「向き合わない構造」「脳の活性化」「リラックス状態」の3条件が重なることで、会議室では出てこない本音が引き出されやすくなります。
- 向き合わない構造:並んで走ることで「試す・試される」関係がなくなり、対象者の心理的防御が下がる。
- 脳の活性化:ランニングによるBDNF分泌とデフォルト・モード・ネットワーク活性化で、クリアで本質的な言葉が出やすくなる。
- リラックス効果:対象者の習慣の場に入ることで緊張感が薄れ、日常に近い状態で話してもらえる。
会議室でのインタビューを重ねてきたライターなら、一度はこんな経験をしているはずです。質問を投げると、きれいにまとまった回答が返ってきます。文章にするとそれなりに読めます。しかし何かが足りない。取材相手が本当に何を考えているのか、どこにも触れていない気がします。
「準備された言葉」と「本音の言葉」の差は、質問の仕方だけでは埋まらないことがあります。場所と、取材相手の身体の状態が、話の深さを決めることがあるからです。
この記事では、ランニングインタビューという取材手法の定義と、なぜ走りながら話すと本音が出やすくなるのかを、心理・脳科学の視点から解説します。
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目次
ランニングインタビューとは何か
ランニングインタビューとは、取材者が取材対象者と並走しながら話を聞く取材手法です。会議室や喫茶店でテーブルを挟んで向き合うのではなく、同じ方向を向き、同じペースで走りながらやり取りします。座って向き合う形式とは、その根本から異なる構造を持っています。
定義と基本的な形式
対象者は、日常的にランニングを習慣にしている経営者や管理職であることが多いです。彼らがすでに生活に組み込んでいるランニングの場に、取材者が「加わる」形で実施します。取材のためにわざわざ時間をつくってもらうのではなく、走るついでに話す設定になるため、対象者の負担感も下がりやすいです。

どんな場面・対象者で使われるか
主に経営者・役員・管理職など、習慣的にランニングをしている人物を対象にした人物インタビューで活用されることが多いです。健康経営や意思決定、ストレス管理といったテーマで話を引き出したい場面でも相性がよく、走ること自体を取材テーマの一部にできるため、インタビュー記事に独自の切り口を加えることができます。
走りながら話すと、なぜ本音が出るのか
なぜ、走りながら話すと本音が出やすくなるのか。心理・脳科学の観点から、その理由を整理します。

向き合わないことで防御が下がる
通常のインタビューは「向き合う」構造です。取材者が質問し、取材対象者がそれに答えます。このとき対象者の脳は、意識的・無意識的に「評価されている」「うまく答えなければ」という心理的圧力を受けやすいです。その結果、表面的に整った用意された言葉が返ってきます。
並んで走ると、この対立構造が消えます。視線が同じ方向に向き、身体も隣に並びます。これだけで、取材者と対象者の関係は「試す・試される」から「一緒に動く」へと変化します。ウォーキングインタビューを対象にした学術研究(ScienceDirect, 2023)でも、「権力の非対称性が減少し、よりオープンな語りが得られる」という結果が報告されています。
脳が活性化し、言葉が変わる
ランニング中、脳では脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌が高まります。BDNFは神経細胞の生存・成長を促すタンパク質で、その増加は思考のクリアさや柔軟性につながるとされています。走りながら話すことで、取材対象者はクリアになった頭で言葉を選べる状態になります。
さらに、有酸素運動中には脳のデフォルト・モード・ネットワークが活性化します。これは、意識が目の前の課題から少し離れたときに動き出す神経回路で、ここが活性化すると「いつも使っている言葉」ではなく、内側から湧き出るような言葉が出やすくなります。インタビューの席では出てこなかった本音や、普段自分でも意識していない考えが、走りながらの会話では引き出されることがあります。
ランニングがもたらすリラックス状態
走ること自体がストレスを解放する効果を持つことは広く知られています。ランニング習慣のある人は、そうでない人と比べてストレス指数が低い傾向があり、走っている最中はリラックス状態に近いです。
対象者が普段のコースを普段のペースで走っているとき、その精神状態は通常運転に近くなります。会議室でのインタビューとは異なり、「今日はインタビューの場である」という緊張感が薄れます。ガードが下がった状態で交わされる会話は、本音に近い内容を含みやすいです。
従来のインタビューとの比較
座って向き合うインタビューと、ランニングインタビューの違いを以下の表に整理します。
| 比較軸 | 従来インタビュー | ランニングインタビュー |
|---|---|---|
| 場所・姿勢 | 室内・向き合い | 屋外・並走 |
| 心理状態 | 緊張・防御 | リラックス |
| 返答の傾向 | 用意された言葉 | 即興・本音 |
| 話題の広がり | 質問に沿う | 環境から広がる |
どちらが優れているということではありません。ただ、より深い言葉やよりリアルな話を引き出したいなら、場所と身体の状態を変えることには合理的な根拠があります。
ランニングインタビューを実践するときのポイント
事前の関係構築が鍵
走りながら話す設定は、対象者にとって通常のインタビューとは勝手が異なります。事前に趣旨を説明し、了解を得ておくことが前提です。ペースやコースの主導権は必ず対象者に渡し、「あなたのランニングに合わせます」という姿勢が、場の安心感をつくります。
問いかけはシンプルに
走りながら長い質問を聞くことは、想像以上に負担が大きいです。呼吸が上がった状態で複雑な問いに答えることを求められると、話す側の集中力が割れます。問いはできる限り短く、シンプルにすることが有効です。返ってきた言葉を丁寧に拾い、次の問いにつなげる繰り返しが、深い会話を生みます。
録音・メモへの工夫
屋外での録音は風音・呼吸音・足音が入りやすいです。ウィンドジャマー付きのマイクや、走りながらでも扱いやすいICレコーダーを事前に確認しておくと安心です。スマートフォンでも対応できますが、音声の品質に影響しやすい環境のため、テスト録音を事前に行っておくことをお勧めします。
まとめ
インタビューの質を上げようとするとき、多くの場合は質問の仕方に目が向きます。しかし質問がどれほど精緻でも、場と身体の状態が「答える準備」を妨げていれば、引き出せる言葉には限界があります。
ランニングインタビューはその「前提」を変える手法です。向き合わず、試されず、走りながら話す。ただそれだけで、対象者は自分でも意識していなかった言葉を持ち出すことがあります。
「どこかで見た答え」しか引き出せないとき、問いの浅さが原因ではないことが多いです。答える側がインタビューモードに入り、本音をコントロールしています。場所と状況を変えれば、同じ人物から全く異なる言葉が出てきます。
インタビューコンテンツの深さに課題を感じているなら、まず「どんな場でその人と話しているか」を見直すことが次の一手になります。インタビュー記事の制作をお考えであれば、YOSCAにお気軽にご相談ください。
また、走る経営者がなぜ深い言葉を持ちやすいのかについては、関連記事「走る経営者にはなぜ良い話が多いのか」でさらに詳しく解説しています。
本記事テーマにおけるよくある質問
Q. ランニングインタビューとはどのような取材手法ですか?
取材者と取材対象者が並走しながら行うインタビュー手法です。向き合って話す通常のインタビューとは異なり、同じ方向を向いて走ることで心理的な防御が下がり、本音に近い言葉が引き出されやすくなります。
Q. ランニングインタビューはどんな人に向いていますか?
日常的にランニングを習慣にしている経営者・役員・管理職に特に向いています。すでにランニングを生活に組み込んでいる方であれば、通常のランニングのついでに取材でき、負担感も少なくなります。
Q. 走りながら話すと本音が出やすいのはなぜですか?
主に3つの理由があります。並走によって「試す・試される」という対立構造がなくなること、ランニング中にBDNFが分泌され思考がクリアになること、そして運動によるリラックス状態でガードが下がることです。この3つが組み合わさって、本音の言葉が出やすくなります。
Q. ランニングインタビューで録音はどうすればよいですか?
屋外は風音・呼吸音が入りやすい環境です。ウィンドジャマー付きのマイクや耐候性のあるICレコーダーが有効です。スマートフォンも使えますが、事前にテスト録音して音質を確認しておくことをお勧めします。
Q. 通常のインタビューとランニングインタビューの一番の違いは何ですか?
対象者の心理状態と話の質です。向き合うインタビューでは緊張感から用意された答えが出てきやすいのに対し、ランニングインタビューでは走ることのリラックス効果と並走の姿勢によって、より自然で本音に近い言葉が引き出されやすくなります。
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