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AI時代の若手社員の文章指導|上司ごとに指導がばらつく原因と基準のそろえ方

( 最終更新日:2026年10月14日)

この記事の要点


Q: AI時代の若手社員の文章指導で、何が問題になっていますか?

A: 若手が生成AIで文章を整えるため、本人がどこまで考えたかが見えにくくなっています。人事担当者調査では76.2%がこの点を懸念し、69.5%が上司・先輩による指導のばらつきを懸念しています。

Q: 上司ごとに指導がばらつくのはなぜですか?

A: AIをどこまで使ってよいかの線引き、赤字の観点、AIの出力を見る準備が上司ごとに違うためです。管理職向けの生成AI活用に関する周知・研修を実施している企業は7.7%にとどまります。

Q: 指導基準をそろえるには何から始めればよいですか?

A: AIに任せる範囲と本人が担う範囲を決め、赤字の順番を事実・論理・読み手・表現にそろえます。そのうえで同じ文書を複数の上司で添削し、ずれた箇所を基準表に書き足していきます。

若手社員が生成AIを使って書いた報告書を、2人の課長が読んだとします。A課長は、AIの文章をそのまま出さずに自分の言葉で書き直すよう指示しました。B課長は、要点がまとまっていて読みやすいと評価しました。同じ文書に対して、指導の方向が正反対です。

生成AIが職場に広がってから、若手社員の文章指導ではこうした上司ごとの食い違いが起きやすくなりました。若手から見ると、どちらの上司に合わせればよいのかがわかりません。指導を受けるたびに基準が変わるため、何を直せば文章がよくなるのかを学びにくくなります。

人事担当者を対象にした2026年の調査でも、指導のばらつきを懸念する回答が約7割にのぼりました。生成AIをどう活用させるかをめぐって、上司・先輩の指導にばらつきが出やすいというものです。ただ、その原因を上司個人の力量に求めても、状況はあまり変わりません。では、何をそろえれば指導は一本化できるのでしょうか。ばらつきが生まれる仕組みから、部署の単位で指導基準をそろえる手順まで、順に見ていきます。

◉本記事の著者
伊藤謙三
1989年、神奈川県生まれ。青山学院大学経済学部経済学科卒業。大学卒業後に株式会社YOSCAに入社し、編集者としてメディアの編集ディレクション・ライターの育成に携わる。現在は文章にまつわる講座や研修の開発を担当。2020年に「あなたのライターキャリア講座」、2025年に「AI時代のビジネスライティング研修」を立ち上げる。著書に『部下のメール・チャットが読みづらい!と感じたときに読む本』『フリーライターのキャリア50問50答』がある。

若手社員の文章指導で上司ごとの差が懸念されている

産業能率大学総合研究所とHR総研は、2026年10月に人事担当者向けの調査結果を発表しました。320社の人事担当者に、新人・若手社員の育成で感じている懸念を尋ねたものです。最も多かったのは、本人がどこまで自分で考えたのかを確認しにくいという回答で、76.2%でした。上司・先輩によって指導にばらつきが出やすいという回答も69.5%にのぼります。

生成AIの普及を踏まえた新人・若手社員の育成における懸念(人事担当者・上位4項目)

▸ 本人がどこまで自分で考えたのかを確認しにくい

76.2%

▸ 生成AIをどのように活用させるかについて、上司・先輩によって指導にばらつきが出やすい

69.5%

▸ 生成AIを用いた成果物の内容や妥当性を見極めにくい

68.1%

▸ 新人・若手と上司・先輩の間で、生成AI活用の知識やスキルに差が生じやすい

65.8%

出典:生成AIと人材育成に関する人事実態調査(産業能率大学総合研究所・HR総研、2026年)データを見る

上位の懸念は、本人の思考過程や成果物の妥当性、上司と若手の知識差に関わるものです。誤字や敬語の誤りであれば、上司が誰であっても指摘はほぼ同じになります。ところが、考えた跡があるか、内容が妥当かという判断は、読む人の経験や価値観に左右されます。ここに、上司ごとの差が生まれる余地があります。

若手はAIを使う前提で入社している

産業能率大学総合研究所は、2026年度の新入社員500人にも調査を行っています。入社時点で何らかの場面で生成AIを活用した経験がある人は83.2%でした。学生時代のレポートや就職活動など、何らかの場面でAIを使った経験を持つ世代が職場に入ってきています。

そのため、多くの若手にとってAIで文章を整えることは特別な行為ではなくなっています。上司がAIの使用そのものに否定的な反応を示すと、若手は何が問題だったのかを受け取りにくくなります。その結果、AIを使ったことを伏せるようになるおそれがあります。使い方が見えなくなると、指導の手がかりはさらに減ります。

懸念の上位は考えた跡が見えないこと

AIが整えた文章は、構成も言葉づかいも一定の水準に達しています。提出物を読んだだけでは、どこまでが本人の判断で、どこからがAIの提案なのかを見分けにくくなります。

以前であれば、論点が整理できていないことは、読めばすぐに構成の乱れとして表れていました。いまは文章の表面が整っているため、上司は中身の確認に時間をかける必要があります。その確認のやり方が人によって違うことが、指導のばらつきにつながっています。

指導がばらつく原因は上司個人の力量だけではない

指導がそろわないと聞くと、指導のうまい上司とそうでない上司がいるという話に聞こえるかもしれません。しかし、現場で起きている食い違いの多くは、上司のあいだで考え方が共有されていないことから生じていると考えられます。代表的な原因を順に見ていきます。

AIをどこまで使ってよいかの線引きが人によって違う

ある上司は、構成案までAIに作らせてよいと考えています。別の上司は、誤字の確認くらいにとどめるべきだと考えています。この線引きが部署で決まっていないと、同じ使い方をした若手が、上司によって褒められたり注意されたりします。

先の人事担当者調査では、人材育成の見直しが進みにくい理由も尋ねています。最も多かったのは、全社として生成AI活用の方向性が明確ではないという回答で、48.3%でした。会社としての方針がなければ、上司はそれぞれの経験から線を引くことになります。線の位置が人によって違うのは当然です。

赤字の観点が混ざっている

若手の文章に入る赤字には、性質の違うものが混ざっています。数字や固有名詞の誤りを正す赤字があり、結論と根拠のつながりを問う赤字があります。読み手に合わせて情報の順番を入れ替える赤字や、言い回しの好みを反映した赤字もあります。

このうち言い回しの赤字は、上司の好みが最も出やすい部分です。文末の「と考えます」を弱いと感じる上司もいれば、断定を避けた丁寧な表現だと受け取る上司もいます。観点を区別しないまま赤字を入れると、若手は事実の誤りと好みの違いを同じ重さで受け止めてしまいます。

上司の側がAIの出力を見る訓練を受けていない

もう一つの原因は、指導する側の準備です。同じ調査では、生成AIの普及で育成上の課題が大きいと感じる階層も尋ねています。最も多かったのは管理職で、59.4%でした。一方、管理職向けの生成AI活用に関する周知・研修を実施していると答えたのは7.7%にとどまっています。

現在実施している生成AI活用に向けた周知・研修(人事担当者・抜粋)

▸ 生成AIの基礎知識に関する周知・研修

41.2%

▸ 生成AIの利用ルールや留意点に関する周知・研修

40.9%

▸ 情報の真偽確認や根拠確認に関する周知・研修

8.9%

▸ 管理職向けの生成AI活用に関する周知・研修

7.7%

出典:生成AIと人材育成に関する人事実態調査(産業能率大学総合研究所・HR総研、2026年)データを見る

基礎知識や利用ルールの周知は、およそ4割で行われています。しかし、情報の真偽や根拠を確かめる方法や、管理職がAIをどう扱うかといった内容は、1割に届いていません。若手を指導する立場の人が、AIの出力をどう読むかを学ぶ機会はまだ限られています。上司ごとの差は、こうした準備の不足からも生まれていると考えられます。

指導基準をそろえるために先に決めておく三つのこと

原因が考え方のずれにあるなら、対策はそれを言葉にして共有することです。全社のガイドラインが整うのを待つ必要はありません。部署やチームの単位で次の三つを先に決めておくだけでも、指導の食い違いはかなり減らせます。

AIに任せる範囲と本人が担う範囲を分ける

最初に決めたいのは、文章づくりのどの工程をAIに任せてよいかです。目安になるのは、その工程が文書の判断に関わるかどうかです。

下書きの作成や言い換えの候補出し、誤字脱字や敬語の確認は、AIに任せても判断の主体は本人に残ります。一方、文書の目的を決めること、結論を選ぶこと、根拠としてどの事実を使うかを選ぶことは、本人が担う範囲に置きます。目的、結論、根拠の三点は、若手が仕事を覚えるうえで手放してはいけない工程です。

範囲を決めたら、上司全員がその範囲で評価します。決めた範囲の中でAIを使ったことを理由に評価を下げない、という約束も合わせて決めておきます。

赤字は事実、論理、読み手、表現の順に入れる

二つめは、赤字を入れる順番です。まず数字や日付、固有名詞などの事実に誤りがないかを見ます。次に、結論と根拠がつながっているかを見ます。そのうえで、読み手が最初に知りたい情報が先に来ているかを確かめ、最後に表現を整えます。

この順番を決めておくと、上司によって赤字の量が違っても、重みづけはそろいます。事実と論理の赤字は必ず直してもらい、表現の赤字は提案として扱うと区別しておくのも一つの方法です。若手は、どの指摘から手をつければよいかを迷わずに済みます。

提出時にAIに任せた部分を一行添えてもらう

三つめは、提出のときに、AIに任せた範囲を一行で書き添えてもらうことです。構成は自分で考え、本文の下書きと誤字の確認にAIを使った、という程度の書き方で十分です。

この一行があると、上司は本人が判断した部分に絞って質問できます。考えた跡が見えないという懸念に対して、手間の少ない対策です。申告してもらう目的は、指導の焦点を合わせることにあります。AIを使ったこと自体は責めないと、最初に若手へ伝えておきます。

上司のあいだで目線を合わせる進め方

基準を決めても、文章で書いた基準は読む人によって解釈が分かれます。根拠が十分かという基準一つをとっても、どの程度なら合格とするかは人によって違います。そこで、実際の文書を使って上司同士の目線を合わせる場を設けます。

同じ文書を複数の上司で添削して差を見る

若手が実際に書いた報告書やメールを一つ選び、本人の了承を得たうえで、複数の上司がそれぞれ添削します。時間は30分程度で足ります。

添削が終わったら、赤字を並べて比べます。全員が同じ箇所に赤字を入れていれば、そこは基準がすでに共有されている部分です。一人だけが赤字を入れた箇所や、直し方が正反対の箇所が、ばらつきの発生源です。

ずれた箇所だけを基準表に書き足す

比べて見つかったずれは、その場で話し合い、部署としての扱いを決めます。決まった内容は、一枚の基準表に書き足していきます。

たとえば、売上が前年より伸びたとだけ書いた報告があったとします。ある上司は数字を入れるよう求め、別の上司は問題にしませんでした。話し合いの結果、増減を述べるときは比較の対象と数値を必ず書く、と決まれば、それが基準表の一行になります。

基準表を最初から網羅的に作ろうとすると、項目が増えすぎて読まれなくなります。実際にずれが出た箇所だけを足していくほうが、現場で使われる表になります。月に一度、新しい文書で同じ作業を繰り返すと、数か月で部署の文書に合った基準表ができあがります。

若手には指摘より先に基準表を渡す

基準表ができたら、若手には添削の前に渡しておきます。何を見られるかがわかっていれば、若手は提出前に自分で確かめることができます。

指摘を受けてから基準を知る順番だと、若手は指摘のたびに後追いで学ぶことになります。基準を先に渡しておけば、上司の赤字は基準に照らした確認として受け取られます。担当の上司が替わっても同じ基準で見てもらえるため、若手は安心して文章を出せるようになります。

若手に返す言葉を直す指示から問いに変える

基準がそろっても、上司が赤字で正解を書き込んでしまうと、若手はそれをAIに入力して直すだけになりがちです。修正の指示をそのままプロンプトとして使えば、本人が考える工程はまた抜け落ちます。

そこで、本人が担う範囲については、直し方を示す代わりに問いを返します。「この報告で部長に一番伝えたいことを一文で言うと何ですか」「この数字はどの資料で確かめましたか」「読み手が最初に知りたいのは、経緯と結論のどちらですか」といった問いです。こうした問いには、本人が仕事の中身を把握していなければ答えられません。

問いに答えられれば、文章はそこから本人が直せます。答えに詰まった場合は、文章以前に、仕事の理解が足りていないことがわかります。どちらの場合も、上司は若手がどこでつまずいているかを把握できます。

メールやチャットの添削で使える具体的な指摘の仕方は、部下のメールスキルを上げる指導法の記事で取り上げています。書く力の全体像については、AI時代に社員へ求められるビジネスライティングスキルの記事もあわせてご覧ください。

若手社員の文章指導についてよくある質問

Q.若手にAIの使用を禁止したほうが文章力は伸びますか?

A. 一律に禁止すると、かえって使い方が見えなくなるおそれがあります。若手の多くは入社前からAIを使っており、職場で禁止しても見えないところで使い続けることが考えられます。目的や結論を決める工程は本人が担い、下書きや表現の確認はAIに任せてよい、と範囲を決めておくほうが現実的です。本人が考える工程も残しやすくなります。

Q.AIで書いたかどうかを見分ける必要はありますか?

A. 指導の場面では、見分けることよりも、本人が判断した部分を確かめることに時間を使うほうが役立ちます。提出時にAIに任せた範囲を書き添えてもらい、結論や根拠の選び方について質問すれば、本人の理解度は把握できます。

Q.指導基準はどの単位で作るのがよいですか?

A. まずは部署やチームの単位で作るのが現実的です。扱う文書の種類や読み手が近いメンバーで作るほうが、具体的な基準になります。複数の部署で基準表がそろってきたら、共通する項目を全社の基準として整理する進め方もあります。

Q.上司自身がAIに詳しくなくても指導できますか?

A. 指導できます。若手の文章で確かめたいのは、事実が正しいか、結論を支える根拠があるか、読み手に合っているかという点です。いずれもAIの操作に詳しくなくても判断できます。ただし、AIの出力にはもっともらしい誤りが含まれることがあります。数字や固有名詞の出典を確かめる習慣は、上司の側にも欠かせません。

まとめ

AI時代の若手社員の文章指導で起きやすい混乱は、上司ごとに見ている場所が違うことから生まれます。AIで文章の形が整うようになった分、上司は内容を見て評価することになります。ところが、その判断基準が上司のあいだでそろっていません。

必要なのは、AIに任せる範囲、赤字の順番、提出時の一行という三つの約束を部署で決め、実際の文書を使って上司同士の目線を合わせることです。

見落とされやすいのは、指導する側にも手本がないという点です。上司は、自分が若手だったころに受けた指導を参考にすることが多いものです。しかし、その指導はAIのない職場を前提にしていました。参考にできるものがないまま基準を一から作るのは、上司一人ひとりにとって負担の大きい作業です。

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伊藤謙三
1989年、神奈川県生まれ。青山学院大学経済学部経済学科卒業。 大学卒業後に株式会社YOSCAに入社し、編集者としてメディアの編集ディレクション・ライターの育成に携わる。現在は文章にまつわる講座や研修の開発を担当。2020年に「あなたのライターキャリア講座」、2025年に「AI時代のビジネスライティング研修」を立ち上げる。著書に『部下のメール・チャットが読みづらい!と感じたときに読む本』『フリーライターのキャリア50問50答』がある。
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